(株)エフエムもえる | 留萌市
「市民発・草の根の情報が貴重」とはよく耳にするが、実際に普通のマチの住民達が楽しんで自分の話をしに集まるユニークな情報ネットが、道北の留萌地域で地元の高い支持を集めている。
留萌市のコミュニティラジオ放送「㈱エフエムもえる」(2004年放送開始)、ウェブサイト「るもいfan.net」(2008年開設)、月刊フリーペーパー「るもいfan通信」(2008年、各号5000部発行)の3媒体が融合したメディアミックスがそれ。農家や酪農家、漁師、主婦、地元の中学生、地元企業の社長など、多彩なパーソナリティーが日替わりで留萌駅前の放送スタジオに集い、地域密着型のオリジナルな情報を発信する。「あそこに行ったら何か面白いものがある」「誰かに会える」「自分の放送ができる」「自分の知っていることを知らせたい」など、マチの人々は各自で放送局に魅力を見つけて集まってくる。番組出演、原稿作成、音声調整などの実働ボランティアは、ゲストを含めて週約150人。応援ボランティアは約900人(人口の約3%)にのぼる草の根の市民メディアだ。
㈱エフエムもえる編集局が情報を一元管理し、サイトは毎日更新される。道北の留萌地域(留萌市、増毛町、小平町、苫前町、羽幌町、初山別村、遠別町、天塩町、幌延町)が対象。旬の食材や人やイベント、観光情報などを、各地の情報員(約50人)が収集し地域内外へ発信している。
㈱エフエムもえる社長の佐藤太紀さんが1996年に留萌に帰った当時、住民の間には「留萌には何もない」という声ばかりだった。都会中心の評価では劣等感しか生まれない。留萌での生活がハッピーであるには、何が必要なのか。佐藤さんは「人が“自由意志”で関わり、その結果或は経過が、まわりに評価されること。これは、社会的な動物として、社会と関わるという根源的な幸福感につながる。住民感性(住民がその地域の魅力を感じ、楽しむことができる能力)を高めることが必要」と考えた。そのために「情報、食といった、人間が生物として生きてゆくために、無条件に必要ものの結束点、或いは、社会の仕組みの中ではプラットフォームとして、たまたま都合がよい放送局を開設しました。これが同時に留萌のことを知り、留萌の魅力~(正しい)誇りにつながるのだろうと考えています」とも語る。
実際の「るもいfan通信」8月号の紙面では、「てしおキムチ工房」の代表の取材、季節の食材トウモロコシのプチ蘊蓄、小平町や増毛町の産業まつり、地元の無声映画上映会やトム・プロジェクト(東京)の「鬼灯町鬼灯通り三丁目」苫前町公演の予告などが、美しい編集で紹介されている。記事としての客観性と、「お隣りさん」の人肌の温もりの絶妙なバランスが、使えて楽しい高品質な「マチの情報」となっている。
マチの情報発信は、地域への愛着と誇りを育む。また、発信のプラットフォームを市民が共有することで、自らが地元の魅力を客観的にみつめる姿勢を住民一人一人にもたらす。この情報ネットは地域活性化の事例としても全国から注目を集めている。