塚田敏信 | 札幌市
自分のマチの文化や風物を、日常で意識している住民はどれだけ居るだろうか。
市場や銭湯など、失われつつある身近なマチの文化を長年にわたって収集・記録してきた研究者、塚田敏信さんは、その魅力を地元誌や市民講座で精力的に伝えている。
毎晩、買い物の主婦達で賑わった商店街の光景、店主自慢の売切御免のコロッケ、店先で仕事をしていた畳屋さん、縁日さながらに賑わった売り出しのチラシや写真……。塚田さんの写真資料が呼び起こすのは、かつて確かに我々が持っていたマチの文化の姿、そしてそれを当たり前に支えてきた各地のコミュニティーの活力だ。
塚田さんは現在、札幌篠路高校の社会科を教えている。塚田さんが「マチの文化」に目覚めたのは、高校教員になって初赴任した釧路での体験がきっかけ。味わいある古い建物などさまざまなマチの文化について、地元の人に聞いてみたところ、「多くの人にとって、それまで札幌で私自身がそうだったように、自分のマチの歴史や風物自然は『空気』のように全く意識されていない」ことに気付き、衝撃を受けたという。それを契機に「マチの文化を見つめ直す」活動を開始した。教え子の高校生達と一緒に地元の古老や商業関係者への聞き取りを行い、年度の終わりには記録集を発行した。今では、その冊子にしか残っていない貴重な記録もあるという。その後、札幌へ転勤。ここでも聞き取りやマチの文化の掘り起こしを続ける中から、2005年に外部講師を招いてのシリーズ企画「篠路高校図書館講座」をスタートさせた。
同校名物「図書館講座」は知る人ぞ知る。写真家、作家、編集者、美術作家、研究者など第一線で活躍する「北海道の宝物」ともいうべき人々を講師に招き、高校生とともに一般の参加者がお話をうかがう人気企画だ。最近では、「東京バンドワゴン」シリーズの人気作家小路幸也さんや、ちまちま人形シリーズで注目を集める高山美香さん、北大公共政策院の中島岳志准教授などの方々をゲストにお招きしている。
毎日見ていながら実は「見えていなかった」足元の文化の認識から始まった活動は、いま、各地の図書館や文学館、また再振興策を模索している札幌各地の商店街やマチおこし団体とも連携しながら、多くの人を巻き込んで、草の根の活動を拡げつつある。そこから浮かび上がって来るのは「昔は良かった」ではない。今、我々がそれぞれのマチで楽しく豊かに生きるとは、どういうことなのか、ではなかろうか。マチ文化のこれまでの蓄積が、マチの未来を見る者に静かに問いかけてくる。