草の根活動の紹介

高齢者の概念が変わる

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旧穂別町(現むかわ町)の高齢者映画制作事業 | 勇払郡むかわ町

支笏湖小学校で、子供たちと映画を作ったという映画監督崔洋一氏の話をきいて、町の老人たちが「おれたちも映画つくれるべか?」とつぶやいたのがきっかけだったという。斉藤征義さん(当時は穂別町職員、現在退職)が仕掛け人となった映画制作事業。「老いを力に」を合言葉に、平均年齢70代、最高年齢は90代におよぶ高齢者が脚本・監督・製作・出演・編集まですべてをこなす。血圧測定からロケが始まる状況で、ロケ中に出演者が亡くなったことも。しかし映画にはこれまで人が想像もしなかったような老人のパワーがみなぎり、多くの人々を元気づけ、これから本格的な高齢化社会を迎えつつある私たちに、老人の新たなロール・モデルを示して国際的な反響を呼ぶ。今年に入ってシリーズ第4作目を制作中。

映画の反響のおかげで小さな町に外国も含めた遠方から人が訪れるようになり、芝居心は日常生活にも浸透し、老人たちは最期まで生きがいと張りのある日々を送っている。映画の面白さもさることながら、映画を企画し、作り上げ、フィードバックを得るそのプロセスのなかで、人が変わり、町が変わっていったプロセスの全体が、すぐれたコミュニティアートといえる。

映画には、高齢化のみならず、過疎や経済的な疲弊、それにともなう市町村合併による地域アイデンティティの危機といったまちが抱える問題が主題化され、創造力のばねとして利用されている。地域のおかれた状況のそのままに深く根ざし、ネガティブをポジティブに変えるすぐれて草の根的な文化事業である。

他地域への波及効果もめざましく、彼らの熱気が飛び火するように、「おれたちも映画つくれるべか?」とつぶやく人の輪が広がっているという。帯広市では老人たち、札幌市の西区では保育園児と父母たちによる映画作りがはじまり、いずれも旧穂別町からスタッフが出張して指導した。こうした草の根映画事業の広がりが、今後どのように人を変え、地域を変えていくか、楽しみである。

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