草の根活動の紹介

農業と芸術、都市と農村の融合をめざして

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北海道農民管弦楽団 牧野時夫 | 余市郡

北海道の農業のとても面白いところは、夢をもって帰農したインテリ農民が沢山いるところ。今でこそ全国的な現象になったが、早くから集中的にそれがなされてきた場所として北海道は比類ない。そうしたインテリ農民が、農業の意味を問いなおしたり、農家の生活、農村コミュニティに新風を吹き込んできた軌跡は、北海道固有の文化の一部になっている。北海道農民管弦楽団を設立した牧野時夫さんも、大学修士号も持ってる、そんな農民の一人。

北海道農民管弦楽団はその名の通り、北海道在住の農家を中心に、農協職員、農業試験場研究員などの農業関係者約70名が集う管弦楽団で、毎年、農閑期に集まっては演奏会を行う。

学生時代宮沢賢治の「農民芸術概論綱要」に共鳴したことがきっかけ、と代表者の牧野時夫さん。北海道大学交響楽団や社会人オケの北海道交響楽団でコンサートマスターをつとめながら農学部で修士号をとったあと、本州のワイン会社に就職するも、30歳のときにサラリーマンを辞め、「えこふぁーむ」という有機農家をはじめた。都市と田舎、インテリと農家、農業と音楽といった様々なコントラストを一身に体現する人だ。

彼が宮沢賢治から受け継いだ精神とは? 専門家間でしか通用しないような「芸術のための芸術」の砦に閉じこもりがちな芸術を、太古の芸術がそうだったように、ふたたび日々の労働に結びつけ、また労働を祈りや自然と結びつける。それは、芸術にとっては、虚飾や権威主義から洗い清め、原点にもどすことになる。また農家にとっては、つらい労働を芸術で彩り、あたらしい農村文化をつくるこころみにもなる。

社会のつくりからみても理にかなった、意味深い運動だ。同じ分野でどんなに緊密なネットワークをつくり、情報交換を行っても、均質集団の自閉性に陥る。が、農業と芸術のように一見遠い領域をつなぐ紐帯ができることで、その間を新鮮なインスピレーションが行き来し、関係者が新たな世界に目覚めるのだろう。

北海道農民管弦楽団が成功した今、牧野さんは新たなチャレンジとして「農民芸術学校」設立構想をあたためておられる。宮沢賢治の勤務した花巻国民高等学校もその流れをくんでいるデンマーク発祥のフォルケ・ホイスコーレをベースにした学校構想で、有機農業を中心とした自給的労働と創造的な芸術活動によって、現代資本主義の歯車にならずにすむ、自立した人間を育てるための学校とのこと。

草の根からの北海道の農村の未来のヴィジョンが強烈に発される焦点の一つになっている。

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