栂嶺レイ | 千歳市
2005年に世界自然遺産に登録され、「手つかずの大自然」のイメージがある知床半島に、今からほんの40年ほど前まで、開拓者達がイキイキと暮らしていたことはほとんど知られていない。千歳市の写真家にして医師の栂嶺レイ(つがみね・れい)さんの写真集「知床開拓スピリット」(柏艪舎、2007年)は、知床半島にひっそりと残る、開拓跡とその歴史を掘り起こした仕事。木々に埋もれつつある家屋や屋内に放置された鳥籠、神仏を祀っていた跡などから開拓当時の様子がうかがえる。今まで堅く口を閉ざしていた元開拓者たちへの2年にわたる取材によって明らかになった当時の生活の様子から、国策により開拓地を手放さざるを得なくなった経緯まで、170枚のカラー写真と当時のモノクロ写真46枚とともに詳しく語られたルポルタージュ。さまざまな理由から隠蔽され、誤解されてきた知床開拓の歴史を伝えている。
「開拓は悲惨だった、悲劇の歴史だった、という受け止め方は、あくまで実際の開拓者側の歴史を知らない外からの見方でしかない」「知床開拓とは、戦後日本のまだ高度成長期も始まらない未明の時代、国や自治体の助けも十分にない状態で、水や電気を得る基本的なことから、家を建て学校を整備し子供達を育てることまで、何から何まで自分たちの手で行うという、人の知力とパワーを全開に繰り広げた歴史なのである」「ゼロから自分たちの手で暮らしを作り上げ、どんな困難も切り抜け生き延びてきた人々がいたという事実は、現代の私たちにとって大きな力となるはずだ。」(同書より引用)
過去は、ただ懐かしむだけのノスタルジーではない。真摯に向き合うことで、現在に生きる私たちが未来へ向かう知恵や力の源にもなる。戦後の知床開拓の埋もれた遺産の検証が、未来への貴重な示唆ともなっている。
参考書籍:「知床開拓スピリット―栂嶺レイ写真集」栂嶺レイ著 柏艪舎(2007/12)