草の根活動の紹介

お神楽の衝撃―深層の土俗と エネルギーを掘り起こす現代の語り部

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三上敏視 | 札幌市

古代からの民俗芸能「お神楽」。だが、実際にその現場を見聞きした人が現代ではどれだけいるだろうか。

そんな中、全国各地で伝承されているお神楽映像を解説付きで上映する「お神楽ジョッキー」が、静かな感動を呼んでいる。上映しているのは、札幌の神楽・伝承音楽の研究者にして音楽家の三上敏視さん。長年にわたって日本全国津々浦々に出向き、各地で伝承されているお神楽を記録してきた。2009年に初のお神楽ガイド「神楽と出会う本」(アルテスパブリッシング)を出版、それを契機に「お神楽ジョッキー」と題したビデオ上映と解説の夕べを始めた。

誰もが知っているようで、実際には殆ど見たことがないお神楽の面白さは、衝撃的でさえある。榊の枝を真剣で切りながらのアクロバティックな剣舞、3人の青年が舞いながら巨大な綱を編み上げていく映像、煮えたぎる熱湯を釜から素手で跳ね上げる神事、おなじみの獅子舞や山の神の出現など、それぞれに土着的でダイナミック、時には猥雑でエロティックなものもありながら、同時に歴史と神威をも感じさせる。

三上さん自身は、多摩美大芸術人類学研究所(中沢新一所長)の特別研究員であると同時に細野晴臣らとライブを行う現代音楽のミュージシャンでもある。お神楽の「伝承芸能」、「舞踊・アート・音楽」という両面を深く見通す見識と感性の持ち主だ。なればこそ、各地で撮影された映像と解説は、その地の神楽のエッセンスを捉え、誰が見ても文句無く面白い。

「神楽の背景にある信仰文化は、この列島に暮らした人々の生活の中から生まれたものだ。(中略)現代に住む僕たちも、そろそろ人間は自然をコントロールできないことを身にしみてわかってきたはずだから、先人が長い時間をかけて培ってきた信仰文化を見直して、先人の気持ちと共振しながら生きていったほうがいいのではないだろうか」「神楽をはじめとする民俗伝統芸能をただの観光資源としてではなく、経済原理優先の今の時代とは別の原理で地方に生きる上での拠り所にしようという、もう一歩踏み込んだ動きが始まっているところもある。都会の人間がうらやましくなるような『祭り文化』を地方で取り戻すことができれば、それは日本が再び『まっとう』になるために大いに役に立つのではないだろうか」と、三上さんは同書の「神楽と現代文明―あとがきにかえて」で語っている。

北海道でも、松前神楽、厚岸かぐら、室蘭神楽などが伝承されている。日本各地の風景、伝承、生活、思いに深く根ざした芸能が、三上さんという現代の語り部を得て、改めて現代人の心に届けられている。

・参考資料:三上敏視著「神楽と出会う本」(アルテスパブリッシング、2009年10月)

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