NPOラポラポラ | 旭川市
人は、なぜ表現するのか。アウトサイダー・アートの作品は、衝撃とともにそんな思いを見る者に抱かせる。
アウトサイダー・アートとは、美術界や教育とは無縁の世界で独自に制作する作家たちによって創作される作品の総称。元々はフランス語の「アール・ブリュット(生の芸術)」の訳語だ。昼間は掃除夫として働きながら誰にも知られること無く膨大な作品群を残したヘンリー・ダーガー(『非現実の王国で ヘンリー・ダーガーの謎』としてドキュメンタリー映画化)や、郵便配達の傍ら石とセメントでフランスの片田舎に奇想天外な宮殿を独力で築き上げたシュヴァル、刑務所の囚人が独房の木壁にスプーンの柄で彫り続けた曼荼羅のような壁画、日本では山下清や、各地の社会福祉施設の入園者や障害者達が作る作品が知られている。いずれも作者の人生経験が培った独自の哲学や世界観が反映されている。これまで多くはゴミとして捨てられ、芸術の一画として評価されるようになったのは近代に入ってからのことだ。作品の多くは、他人の目を意識せずに自らの表現衝動だけを動機に秘かに製作され、既存の美術の技法によらず、時として素朴、時として緻密、時として過剰な野性味で観る者に「人が表現する」ことの根源を問いかける。
旭川のNPOラポラポラでは、アウトサイダー・アートを紹介している。代表の工藤和彦さん(40)はプロの陶芸家。およそ20年前、滋賀県信楽で陶芸修業中に、同県の福祉施設の知的障害者等が制作した作品に出会い、アウトサイダー・アートの世界に魅せられた。この事をきっかけにして、知的障害者の福祉施設で職員として5年間陶芸を教え、その後、陶芸家として北海道で独立。全国で活躍する一方、「人々が障害の有無や様々な境遇を越えて、アートを通して交流する事でお互いを理解しあえる関係を推進する取り組み」を掲げ、2006年12月に旭川市に常設ギャラリー「ボーダレス・アートギャラリーラポラポラ」をオープン。陶芸家とアウトサイダー・アートの紹介者の、二足のわらじで活動してきた。道立旭川美術館でアール・ブリュット/交差する魂展(2008年1月)やアロイーズ展(2009年10月)を招聘したり、道内作家の展示などを行ってきた。旭川管内でのアウトサイダー・アートの認知度は高くなり、常設ギャラリーの役割は一段落」として2010年5月にギャラリーを閉鎖。現在は北海道各地で作品の発掘、展示、シンポジウム等を行う事で、アウトサイダー・アートの普及活動を行っている。また、北海道のアウトサイダー・アートの情報を国内外の関係機関に伝えている。
閉鎖空間で作られていた作品が、外の世界に出ることで、作り手と地域の人々や家族との関係が変化する事例は多数報告されている。また、多様な価値観や考え方を受け入れる社会になることで、社会全体も豊かになるのではないか。アウトサイダー・アートが現代社会に投げかけてくる問題は大きい。
参考資料:アウトサイダー・アートのネットワーク構築へ 旭川のラポラポラ(2010/07/15)日本財団ブログ・マガジン
「アウトサイダー・アートの魅力と視点」工藤和彦(「美術ペン」130号、2010年春号、2010/04/15発行