草の根活動の紹介

包摂と参画の 時代に先駆ける発寒商店街の試み

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HACHAM ART COMPLEX | 札幌市

全国各地で地域の商店街の空洞化が著しい中、札幌に「地域の縁側」として地域の活性化拠点となっているカフェがある。大型スーパーの進出や道路による旧商店街の分断などで、かつての賑わいが失われていたマチの空気が変わり始めた。一体ここで何が起こっているのか?

仕掛け人は、北海道大学公共政策大学院で政治学を教える中島岳志准教授。老人の孤立死や2008年の秋葉原の殺傷事件など、個人の社会的な孤立が様々な社会問題を引き起こしていることを指摘。翻って、かつての商店街が持っていた社会的包摂の力に着目した。寂れ果ててしまった商店街に「地域の縁側」の役割を取り戻せないだろうか。「新しいジモト主義」を作ろうと、2009年2月にオープンさせたのがカフェ・ハチャムだった。住民が互いの顔が見え、世代を越えて声をかけあうことが出来、それぞれの距離感で関わることの出来る「ゆるい空間」だ。毎週土曜はイベントを企画し、住民だけでなく多種多様な外部の人々が関われる仕組みも取り入れた。

チラシづくりや企画づくり、運営にまで、中島ゼミの学生たちが「こんな面白いことはなかった」と楽しんで参加。中島准教授は「現代の若者は、かつてのように『良い暮らし』をすることよりも『社会的に意味のある生き方』を望む傾向が強い」と指摘する。

また、商店街の人々も変わり始めた。カフェ・ハチャムの店舗改装は商店街の人々が手仕事でそのほとんどを完成させた。その技術に若者が驚き、商店街のメンバーも自分達の力を再認識した。違う世界の人々が出会うことで、自分達では気付かなかった価値を再発見し評価する。社会の中で行動し、何がしかが変わり、評価される面白さを、ともに味わい、次へのモチベーションが生まれていった。

「何をやっても衰退は止められない」と諦めの空気があった商店街だが、カフェが動き始めると、地域住民自身が主体的に運営を行うようになり、新しい提案にも面白がって挑戦するようになった。2010年には、市場跡地に若手芸術家を支援するNPO h.i.p-a(ヒップエー)が運営するHACHAM ART COMPLEX(ハチャムアートコンプレックス)にアーティストが入居してきた。カフェ・ハチャムを通じて、今、商店街に新しい風が起こり、コミュニティは新たな「縁」を住民や学生や外部と結び始めている。

「人がいきいきと暮らしていくには、自分とは異質の他人や弱者を排除しないコミュニティから、世代や業種を越えた人のつながりを作り出す必要がある」(北大広報誌「テラ・ポプリ」39号、中島准教授とカフェ・ハチャムの紹介記事より)。

「個人の社会参画と包摂」が大きな課題となる現代、カフェ・ハチャムの挑戦が示唆するものは大きい。

参考文献:「リテラ・ポプリ」39号
「商店街にある、大学と社会の接点カフェ・ハチャム」北海道大学総務部広報課発行、2010年2月発行

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