草の根文化の時代

札幌以外の北海道地域の過疎化の進行は近年凄まじい。経済の問題であるのは、もちろんであるが、それと勝るとも劣らず、地域のアイデンティティ、あるいは、そこにいることの意味の空洞化に発するこの問題に対して、芸術や文化の研究者として何ができるかと真剣に問うた時、地域への還元を最大化する文化形態として、「草の根文化」という概念構想が生まれた。

草の根文化とは、その素材や発信形態が、地域のありのままの状況と密接に結びつく文化、ゆえにその生産・発信がそのまま地域の状況をとらえ直す新たなイメージの生産・共有を促す文化である。草の根文化が生産・蓄積されるごとに、その地域は固有の意味あふれる場所になり、住人は地域をアイデンティティの拠所にできるようになり、外の人々に対しても、その地域について吸引力あるイメージが発信される。このように地域の状況を変える潜在力を持つものの、まだ萌芽段階にあるこの草の根文化の構造や潜勢力を明らかにすることで、実践者に理論的支柱を与え、広い視野から見た自分の意義、役割を自覚した運動体となるのを助け、また、その振興の一助となる研究方法や研究者の役割はいかなるものかを問いたいと思う。